Feb 13, 2011

『光の指で触れよ』池澤夏樹


読み終わったあと、新じゃがを買いに行きました。

スーパーや八百屋の値札と、野菜たちの姿、それをお金を払って買う自分を眺めながら、一週間分の食材を買いました。

光の指で触れよ (中公文庫)光の指で触れよ (中公文庫)
著者:池澤 夏樹
中央公論新社(2011-01-22)
販売元:Amazon.co.jp
クチコミを見る

幸福だった家族が壊れてしまった。
恋をしてしまった夫を置いて、5歳の娘を連れてヨーロッパに旅だったアユミは、「妻」「母」という役割以外の生き方を探す。家族と距離をおくことを選び、寮生活をする高校生の息子は両親と妹のことを思う。ばらばらになった家族、それぞれの歩みの先にあるものとは?

同じ家族を描いた『すばらしい新世界』の続編にあたる小説ですが、そちらは未読です。先に続編を読んでしまったようですが、私自身が最近考えていたことと共通する部分が多く、楽しく読みました。

長年主婦をしてきたアユミは、自分が今まで守ってきた「家族」というあり方について再考する。家族をいつでも守る「妻」であるという以外に、私の生き方があるのではないか、ということ。
夫の林太郎は会社員を続けるということに関心をなくしてゆく。会社に務めることや、経済的な効率を第一に考えるモノカルチャーではない生き方を求める。
息子の森介は、小学校も中学校も、馴染めなかった。子供を画一化しようとする教育にどうしてもハマれなかったという。自分で選んだ高校に通いながら、進路を悩む。 

こうしたそれぞれの思いを通じて、「経済」「教育」「農業」「家族制度」について語ってゆく。
ただ問を投げかけるだけではなくて、家族それぞれが悩み、行動し、答えの例を示してくれる。さて、あなたならどう考えますか?と、丁寧に問いかけてくるように感じる。

個人的には、ちょうど、家族制度に限界がきているように感じているところなので、思考が刺激されて大変良かった。

時代のせいなのか、私の年齢によるものなのか分からないけれど、結婚して家族をつくる、ということに対してあまり積極的に考えられないでいます。中学生くらいからつい最近まで、「恋愛をしなければならない」という強迫観念に囚われていた。20代前半の女性であれば、恋愛に興味をもつべきで、もうそろそろ結婚を全体とした相手を見つけ、数年付き合った後に結婚をして子供を産むべきだ、という考えが、あらゆるところから襲ってきて私の思考を制限しようとする。その考えは、私の中から生まれたものではない、という事は分かっていても、気づくと私の中にあって、なかなか逃れることができなくて苦しかった。どうやってそこから抜けだしたのかよく分からないけど、今は大丈夫。

大丈夫になった途端に、家族制度に疑問を持った。特に、結婚について。子供を産み育てるということは理解できて、それは機会があればやってみたい。でも、結婚したら他人と一緒に住まないといけない?お互いを法的に束縛して自由を奪い合わないといけない?
もうちょっと考えをまとめて改めて書きたいけれども、この作品を読むことで、この問への解答例を見られて、少し参考にすることができた。私は違う答えを求めたいけれど。

作品の話に戻ろう。

楽しく読めた作品ではあるのだけれど、池澤夏樹ファンとしてはちょっとがっかりする部分も多かった。

まず、林太郎の恋愛相手となる美緒の描写がひどい。「不倫」とはとても言えない、子どもじみた「恋愛」に突っ走る、薄っぺらい人物。林太郎が師事した工学教授の娘で、頭のいい若手社員という設定だったのだけど、林太郎との恋愛を通して描かれるのは、まるで中学生のように恋に恋するバカな女の子。あの…いくら恋愛経験が浅くても、こんな20代いないと思う(;´Д`) や、中学生ももっとオトナかも…。
男からみた幻想、というのなら納得できる。40代男性からみた、若くてきれいな女の子。そんな子がウブで、恋愛にのめり込んでたらいいな〜かわいいな〜っていう、幻想なら。でも、残念ながらそうじゃない。美緒、本気で悩んでて気持ち悪いくらい恋に恋してて、それが一人称で語られるのは、ちょっと辛いものがあった。

美緒は、聖書の「雅歌」を愛読している。

私は夜、寝床で、
私の心の愛する者をさがした。
私はさがし求めたが見当たらなかった。

これって、まるっきり私の思いだ。

Σ(゚д゚lll)え…

ちがうとおもう…。ってか、安易すぎないかい…?
宗教をテーマにした素晴らしい作品を書いている作者なので、この引用の仕方はがっかりだった。
(いや、もしかしたら、あえてなのか?雅歌を軽蔑してるとこがあるのかしら?)

林太郎の恋だけが家族をばらばらにした原因ではない、と作中でなんども語られるものの、きっかけとなったことは事実なのだから、もう少し、丁寧に描いて欲しかった。
あと、肝心のラストも納得が行かなかった。
村社会から抜けだして、核家族というあり方を手に入れた現代人。しかし、核家族< /a>のあり方も難しくなった。これから、どうやって人とつながっていくのか?
簡単に言うとこういう流れだと思っていたのだけれど、このラストは、結局振出しに戻っているように思えてしまった。ヨーロッパでのコミュニティの話が興味深かっただけに、結局そこなの?と残念に思った。

アユミは、このように言っている。